蕊へと深く分け入つて蜜を探した蜂のやうな、あのゲエテの心が求めたものは、實にこの『水銀』であつたらうかと想像される。言つて見れば、それはさかんな綜合力だ。ひとり※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルテレン夫人が心得てゐたやうな生活の藝術にかぎらず、あらゆる創造的な人間から生れて來るものは、その『水銀』の力をヌキにしては考へられない――小は個人の營みから、大は同胞全體の上に働きかけることに至るまで。

     紫の一もと

 舊南部領に紫根染の殘つてゐることを傳へ聞き、それを心あてに染色の古法をたづねるため、今一つには紫の一もとなりとも採集したいとの願ひから、遠く南部の地を踏み、花輪の山奧なる湯瀬といふところまで旅して歸つて來た人は、赤坂田町に住む草木屋の主人である。
 同君の土産話によれば、わが國固有の染料たりし紫草の根も、外國より輸入する化學染料の流行に壓せられて、今は顧るものもなき状態にあるといふ。その栽培も、今日では全くそれを行ふものを聞かないとのことである。僅かに本邦各地に殘存する野生のものを採集し得るにとゞまるとのことでもある。紫の一もとたりともそれを育てるものがなければ
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