婦人から、ゲエテは世間智を學んだと言はれてゐるとある。『あらゆる藝術に天才があるならば、生活の藝術に於ける天才ともいふべきは彼女である』と言はれてゐるともある。
たゞこれだけのことなら、この※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルテレン夫人がゲエテ作品中にも重きを成す『※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ルヘルム・マイステル』の中の伯爵夫人のモデルであるといふことを承知するぐらゐにとゞめて、わたしも讀み過したであらう。その後の方でわたしは彼女に關する次のやうな記事にぶつかつた。それは千七百八十二年の三月頃にゲエテが親しいフォン・シュタイン夫人宛に書き送つたものの中に、この※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルテレン夫人に就いて言つた言葉として、
『この小さい人間は私を啓發した。』
と言ひ、彼女は『世間を取扱ふ』ことを心得てゐると言ひ、瞬間のうちに數千粒に分れしかもまた集まつて一丸となる水銀のやうだとも言つてゐる。
この水銀の譬はいかにも美しく形容してあると思ふ。そしてあらゆる同時代の先輩からばかりでなく、また婦人の友達からも學ばうとしたことにかけては、あたかも花の蕊《しべ》から
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