下なぞを焚きつけ、そこに一切を忘れることだ。心の落ちつかない日には、わたしは自分でくべた薪のぱち/\燃える音をきゝながら、狹い風呂場のかまどの前に時を送ることもすくなくない。

     ある人へ

 ある人への返事に。
『御手紙拜見しました。力はどうしたら得られるかとの御尋ねのやうですが、あのゲエテやトルストイのやうな人達でも先づ自分の持つものを粗末にしないところから出發したやうです。そして長い生涯の間には他と交換したものでもそれを自分のものにすることが出來て行つたやうです。君は明治以來のこの國の青年の弱味が歴史精神に缺けてゐたことだとお考へにはなりませんか。故岡倉覺三のごときはそれを持つてゐた稀な人でせう。只今白木屋に開催中の古書展覽會へ行けば「天心全集」三卷は手にも入りませうから、あゝいふものを探されて、熟讀三思せらるゝことを君にお勸めしたいと思ひます。』

     雪の障子

 この節すこし讀書する暇があつて、いろ/\な好い書物から毎日のやうに新しいことを學ぶ。町々はまだ春先の殘雪のために埋められ、とき/″\恐ろしげな地響きを立てゝ屋根から崩れ落ちる雪の音もするが、この雪に濡
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