もない。いぢらしい人達だ。

 年若いころのことであつた。わたしはある娘を知つてゐた。この娘まことに健康な人で、夏の晩なぞよく大の字なりに熟睡しては便所の方へ行くわたしの通り路を塞いでゐた。仕方なしに娘の上をまたいで通り過ぎたものだが、その人は何も知らなかつたことを覺えてゐる。こんなことはさう咎めるに當らない。娘のころに枕をはづして眠るぐらゐは有り勝ちなことで、それが反つて好い健康の證據ともなる。だん/\年をとるやうになれば、誰しも若いうちのやうなことはなくなつて來る。さういふ中でも、寢姿の好い人こそ、女の中の女と考へられなくもない。

 戸も出ずに籠り暮してゐてしと/\降る雨の音なぞをきく時の晝寢は侘しく、語るにも友もない時の晝寢は寂しく、われとわが身をいたはる時の晝寢は甘い。寢るよりほかに分別のないやうなこともあつて、さういふ時の晝寢ほどまた苦いものもない。

[#天から4字下げ]酒飮めばいとゞ寢られぬ夜の雪
 こんな句を殘した古人もあるが、さういふ眠りがたい夜にかぎつて自分は呼び茶をする。するとます/\寢られなくなる。このわたしが樂しみの一つは、さういふ翌日になつて家にある風呂の
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