詩人オスカア・ワイルドの墓などのあるところで、墓地としてもかなり廣い。岡の地勢に添うた樹木の多い區域が行く先に展けてゐるやうなところだつた。深く分け入るうちに古めかしく物錆びた一宇の堂の前へ出た。男と女の寢像がその堂のうちに靜かに置いてあつた。アベラアルとエロイズの墓だ。男は中世紀の哲學者であり神學者でありソルボンヌの先生であつたといはれるし、女は學問のある尼僧であつたといはれる。古く黒ずんだ堂の横手には、この人達は終生變ることのない精神的な愛情をかはしたといふことなぞが立派に書き掲げてあり、堂を取りまく鐵柵の中には何の花とも知らない草花があはれげに咲き亂れてゐたことを覺えてゐる。あれも晝寢の仲間かと思ひ出して見ると、あんなに天地に俯仰して恥ぢないやうな堂々とした寢像としてあらはされてゐるのも、どんなものかと思ふ。『戀ゆゑにそんな悲哀と苦惱とを得た』とフランスの詩人フランソア・※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ロンには歌はれ、死後には翼を比《なら》べた形を彫刻にまで造られて、それを戀とも哀傷ともされ、たゞ/\二人にあやかりたいやうな男や女の語り草となる。まことの人間の姿は尋ねるよし
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