ことを覺えてゐる。その後、支那出來の枕を一つ手に入れた。それはまた支那人の部屋にあつてこそよく調和するやうな赤と黄の色に塗つたもので、自分の部屋などには不似合な調度ではあつたが、支那風な好みの形にも雅致があり、寢心地も惡くない。ある年の夏、戸棚から取出して見ると、枕の隅々を鼠にかじられあまり好い心地《こゝろもち》はしなかつたので、それを涼しさうな和紙に貼りかへたこともある。去年の夏もそれを取り出して、汚れた紙の上に更にある人から貰ひ受けた木版刷の模樣のついた紙を貼りつけて見た。それは光悦が意匠を寫したものとかで、からくれなゐに水くゝるとはの古歌の意があらはしてあり、流れに浮くもみぢの模樣なぞはすこしなまめかしいくらゐのものが出來上つた。晝寢の友とあれば、そんなものでも笑つて濟ませる。
なにかと心せはしく暮してゐる間にも、半日の閑を見つけ、なすべき仕事からも離れて、疲れた身を休める晝寢は樂しい。何氣なく人のいひ捨てた言葉、あるひは人の書きつけたものにふと見つけたことなぞを枕の上に思ひ出すのも、さういふ時だ。料理のことに明るい人の思ひ出として、ある雜誌の中で讀んだ若狹《わかさ》の魚商人
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