ころは河内平野ではないかと思ひます。或ひは河内平野の方がよいかと思ひます。あの邊の淀川は河内(現在北河内郡)を流れて居りますから。大變失禮ですが、一寸氣がつきましたので御參考に申し上げる次第です。』としてあつた。この注意はありがたいと思つて、次囘を發表する時に訂正を附記し、併せてその厚意をも謝して置いたが、匿名の人の誰であるかは分らなかつた。過ぐる日、芝三縁亭の會で宇野浩二君と一緒になつて見ると、あの葉書を呉れた愛讀者とは君であつたとか。あんなに思ひがけなく、またうれしく思つたこともない。

 餘事ながら、第一部を通讀したしるしにと言つて、織田正信君を介してその愛藏する『慊堂遺文』二卷を贈られ、自分を勵まして呉れたY博士のやうな人もあつた。過ぐる七年の間、わたしは自作草稿の第一部を作るために三年を費し、第二部のためには四年を費したが、こんなに月日をかけたことが決して自慢にならない。むしろそれら一切を忘れたい。

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めづらしき友とあひ見て語らへばくやしくも我は耳しひてあり
耳しひてあれども何かくやむべきあひ見るだにも難しと思へば
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[#地から
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