ノ盛り盡し得ざる深き意味を過去に止めることを指摘して見せてゐる。
雜誌ではないが齋藤勇君が編輯する『文學論パンフレット』の中に、ヰルバア・エル・クロスといふ人の『近代英米小説』が出てゐる。織田正信君の譯だ。その中に『文藝の革新には常に幻想を伴ふものである』との言葉を見つけた。幻想を伴ふもの必ずしも文藝の革新にのみ限らないやうな氣がして、あの言葉も忘れがたい。
著作者としての自分の出發
『著作生活を始めようとする時に私の書生流儀に考へたことは、兎にも角にも出版業者がそれ/″\の店を構へ店員を使用して相應な生計を營んで行くのに、その原料を提供する著作者が食ふや食はずに居る法はないといふことであつた。それからまた私の考へたことは、從來著作者と出版業者との間にわだかまる幾多の情實に拘泥して居るよりも、むしろ自分等は進んで新しい讀者を開拓したいといふことであつた。
――私が柄にもない自費出版なぞを思ひ立つたのは、實に當時の著作者と出版業者との關係に安んじられないものがあつたからだ。何とかして著作者の位置も高めたい、その私の要求はかなり強いものであつた。その心から私は書籍も自分で
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