キくなく、比較的早く彼の作品に接した人達の中でも數種の英譯を手にし得たに過ぎなかつた。他の佛蘭西近代の作家にくらべて、彼の著作が吾國に傳へらるゝことのすくなかつた理由の一つは斯うした事情によるのであり、今一つは彼の大きさと深さとに入るためには相應の年月を要するからであつた。今囘、佛蘭西文學に精進する諸君の手によつてバルザック全集邦譯のごとき困難な仕事が企てられ、その著作の全貌を窺ひ知る機會の與へらるゝことは、何と言つてもよろこばしい。バルザックを讀む準備はわれひとの間に、すでに十分出來てゐると信ずるからである。
ゾラ
[#天から10字下げ](ルゴン・マカアル叢書の編輯者より言葉を求められて)
『一日として事なき日なし』といふことを座右の銘としたゾラを今日に生かして見たい。彼は本國の方でも廣く讀まれ、その著作には多數に呼びかける要素を多分に持つた作家であるから、彼が今日の日本に出現したとしたら持前の健筆で忽ち日本の大衆をひきつけたことであらう。彼は現實を掴み出して紙の上にひろげて見せる逞ましい力に富んだ作家であるから、現代日本を觀察して何を捉へ何を赤裸々に描寫するか、興味あ
前へ
次へ
全195ページ中119ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング