Zめたと言つて、わたしのもとへも新裁の譯本一册を分けて贈つてよこして呉れた。わたしはよろこびのあまり、早速君へ手紙を出して、君は好い仕事をはじめて呉れたと書き送つた。白葉君は『ライフ・ワーク』としてチエホフ全著作集の邦譯に着手せられたと聞く。これほど熱心で責任感の強い譯者が原作者の愛をわたしたちにまで分けられるとは、何と言つてもうれしい。おそらく、どんな氣質を異にしたものでも、この譯本を手にして、原作者が天才の誠實に打たれないものはなからう。またその表現の的確で、豐富なのに驚かないものはなからう。文字の純粹性の何であるかをさゝやいてわたしたちを勵まして呉れるのもかうした著作だ。わたしはこの十六卷の邦譯が完成されることを切に希望する。
バルザック
[#天から10字下げ](バルザック全集の刊行をよろこびて)
バルザックに就いては今更多言を費すまでもない。問題は今日に於いていかにバルザックを讀むべきかにあらうと思ふ。バルザックに歸れとは世界大戰以前の當時に本國の佛蘭西に起つた一つの聲でもあつた。從來、吾國にはバルザックを知らうとするものはあつても、その著作の英譯せられたものは
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