短夜の頃
島崎藤村
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蠶豆賣《そらまめうり》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)持ち※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)そろ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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毎日よく降つた。もはや梅雨明けの季節が來ている。町を呼んで通る竿竹賣の聲がするのも、この季節にふさはしい。蠶豆賣《そらまめうり》の來る頃は既に過ぎ去り、青梅を賣りに來るにもやゝ遲く、すゞしい朝顏の呼聲を聞きつけるにはまだすこし早くて、今は青い唐辛《たうがらし》の荷をかついだ男が來はじめる頃だ。住めば都とやら。山家生れの私なぞには、さうでもない。むしろ住めば田舍といふ氣がして來る。實際、この界隈に見つけるものは都會の中の田舍であるが、でもさすがに町の中らしく、朝晩に呼んで來る物賣の聲は絶えない。
どれ、そろ/\蚊帳でも取り出さうか。これはまだ梅雨の明けない時分のこ
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