島崎藤村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)支那《しな》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)無論|難有《ありがた》くも

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)白い絹《きぬ》※[#「※」は底本では「はばへん+白」、179−5]子《ハンケチ》
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 山本さん――支那《しな》の方に居る友人の間には、調戯《からかい》半分に、しかし悪い意味で無く「頭の禿《は》げた坊ちゃん」として知られていた――この人は帰朝して間もなく郷里《くに》から妹が上京するという手紙を受取ったので、神田《かんだ》の旅舎《やどや》で待受けていた。唯《たった》一人の妹がいよいよ着くという前の日には、彼は二階の部屋に静止《じっと》して待っていられなかった。旅舎を出て、町の方へ歩き廻りに行った。それほど待遠しさに堪《た》えられなく成った。
 東京の町中の四季を語っているような水菓子屋の店頭《みせさき》には、冬を越した林檎《りんご》や、黄に熟した蜜柑《みかん》、香橙《オレンジ》などの貯えたのが置並べてあった
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