節ちゃんだって悪かったとは思っている」ということと、「しかし節ちゃんは今自分の為《す》ることを決して悪いとは思っていない」ということと、その間には口で言えない領分があった。感じて貰《もら》うより外に仕方の無いような領分があった。岸本はある点までは輝子の言うことも聞いて見たいと思って、黙って煙草を燻《ふか》していた。
「ですから、お父さんもこないだそう言っていましたよ」と復《ま》た輝子が言った。「節ちゃんの様子と来たら、まるで洒蛙々々《しゃあしゃあ》してるなんて――」
「心持の違ったものの中に居ると、そう成るよ。どうして可いか解《わか》らなく成るよ」と岸本は言って見せた。「あんまりいろいろなことを言われて御覧、トボケてでもいるより外に仕方が無いからね」
 今度は輝子の方が黙ってしまった。岸本は節子と父との隔りが、やがて自分と輝子との隔りであることを思わずにはいられなかった。彼はこんな風に輝子に言って見た。
「つまり、節ちゃんの心持がお父さんには解らないから仕方が無いサ」
「そうかも知れませんけれど、お父さんの心持も節ちゃんには解っていません」
「まあ、俺に言わせると、節ちゃんはお父さんに接近し過ぎたんだね。すくなくもお前よりは、節ちゃんの方がお父さんに接近して見た方だね。何だか節ちゃんもそんなことを言っていたよ。あの代筆をさせられるまでは、お父さんのことがそうよく解らなくって、反《かえ》って好かッたって……」
「一体、節ちゃんは叔父さんによく似てますね」
「そうかなあ……俺に似てるかなあ」
「何事でもこう物をひねって考えるようなところが、それはよく叔父さんに似てますよ。そういう人達が二人|揃《そろ》ってしまったんですから、どうにも仕様がない」
 この輝子の調子が岸本を笑わせた。その時、岸本は嘆息するようにして、
「お前達は節ちゃんが地獄の方へでも歩いて行くように思っているんだろう。ところが節ちゃんは、自分じゃ極楽の方へ歩いてるつもりでいる――そんなに見当が違って来ているんだもの」
「何ですか知りませんけれど、少し普通じゃ有りませんのねえ」
 こう言って、輝子はまた輝子で嘆息した。
 岸本はもうこんな話をしたくなかった。節子のことにさえ触れなければ、輝子は気の置けない話好きな親戚であり、折々子供を見に来てくれるような温情のある人であった。「姉さんの来てあげるのが、そんな
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