いに考えてる。そのくらい俺は岸本兄弟のためという事を重く視《み》てる」
義雄の声は次第に高くなって、離座敷《はなれ》から母屋《おもや》の座敷の方へ響けて行った。その時まで岸本は首を垂《た》れて兄の言うことを聞いていたが、この兄にも黙って自分の秘密を捨てようとしていることに想い到った。いずれは兄の勘当を受けようとまで心を決めている矢先だ。彼は自ら進んで被告の位置に立とうとした。節子の縁談のことで訪ねて来た兄の話頭を自分の上に向けて貰おうとした。
「多分、兄《あに》さんは私が旅に出た時のこともよく御存じないだろうと思いますが――」と岸本が言出した。「国の方に子供でもなければ、二度と兄さんにお目に掛るつもりはありませんでした」
「や。その話が出れば言うが」と義雄は弟の方を強く見て、「先ずどうも、子供を頼んで置いて外国へ出掛けて行くというのに、留守居のものにも逢わずに行ってしまうなんてことは――常識のあるものには出来ないことだサ。お前は何だったろう、嘉代が田舎から出て来る前に、神戸の方へ子供を置いて行ってしまったろう。『捨さんは未だ神戸に居るそうだ』ッて、嘉代なぞは出て来て見て呆《あき》れてしまった」
「そりゃもう姉さんの腹を立たれたのは、御尤《ごもっと》もです」
「あの時のことを話せば、俺は未だ名古屋に居て、お前の不始末を知った。それから東京へ出て来て見た。嘉代が俺の袖《そで》を引いて、『どうも節ちゃんの様子がおかしいぞなし、あの娘《こ》に訊《き》いても泣いてばかりいるが、どうもこれは只《ただ》ではない、貴方《あなた》がまた下手《へた》なことを言出したらどういうことに成るか知れんぞなし』と彼女《あれ》が言うじゃないか。そこで俺が嘉代に、『解った、解った、貴様はここへ出るな、貴様は何事《なんに》も言うな』と。その時はもうお前、節ちゃんはこれだろう――」
「いや、その話を伺うまでもなく、私も既に一度は死を決したものです」
「そりゃお前のことだから、それくらいのことは有ったろう――そりゃ、有ったろう――」
「私も子供は控えておりますし、おめおめと国へは帰って来ましたが、しかしこの事のためには今日《こんにち》まで自分の力に出来るだけのことをしたつもりです」
「その点は申し分は無いサ。その点は完全無欠だ。お前も一度死を決したという以上は、その時にこの事は終りを告げたものじゃないか
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