ス。
「お父さんは私の側へお坐り下さい」
と輝子に言われて、義雄は自慢な婿や姉娘の帰国に眼の不自由も忘れているかのように見えた。
「お鍋がすこし遠方ですから、お父さんには取って進《あ》げますよ」と輝子はその場を取做《とりな》すように言った。
「ようし」と言いながら、義雄は眼病以来の癖のように一寸食器を手でさぐって、それを自分の方へ引寄せた。
「さあ、中根さん」と岸本は輝子と差向いに食卓に就《つ》いた中根の方を見て言った。「今日は鳥の御馳走《ごちそう》にしました――外国からお帰りになると、反《かえ》ってこういうものの方が好かろうと思いましてね」
「久し振で皆さんと御一緒に頂きますかナ」と言って洋服のままかしこまる中根の膝《ひざ》も痛そうであった。
岸本の子供等は父から声の掛るのを待受け顔であった。その側には父親似の眼付をした賢や、赤いリボンを髪にかけてニコニコした毬子が小鳥のように並んだ。
「賢さん、鳥は好き?」と泉太が訊《き》いた。
「好き」と賢が答えた。
「僕もこれが大好きサ」と復《ま》た泉太が言った。
「頂きます」と繁は早や兄よりも先に箸《はし》を執りあげた。
楽しい食事の音がそこにもここにも起った。食卓の周囲《まわり》に集まる親戚のものは熱い葱を噛《か》み、鳥の肉を噛むのに余念も無かった。
「義雄さんにお替りをして進《あ》げとくれ」と岸本は肉の片を頬張《ほおば》りながら輝子に言った。
「さあ、お替えなすって。ずんずん煮えますから」と輝子は隣の方へ手を出して見せた。
「節ちゃん、お前もお上りよ」こう岸本は節子にも言って、皿にある薄赤い鳥の生肉を順に鍋の方へと移した。取替《とっか》え引替《ひっか》え子供等のお替りで、煮ながら食うものはいそがしかった。
「お節ちゃん、葱を入れないで下さい」
「僕には蒟蒻《こんにゃく》ばかり」
こんな註文《ちゅうもん》が遠慮なく煮方の方へやって来た。
「中根さん、もっと召上って下さいませんか」
と岸本に言われても、中根は時々膝の上に箸を休めて、食うことよりも寧《むし》ろこの大人や子供の親しいものが一緒に集まった光景《ありさま》を楽むかのように見えた。
やがて一同は夕飯を終った。満腹した人達は食卓を離れて、思い思いのところに寛《くつろ》いだ。
「叔父さん、いずれすこし落着きましたら露西亜のお茶でも入れますから、私共へもいらし
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