つじょう》の細《こま》かい注意《ちゅうい》を残《のこ》りなくお初《はつ》から教《おし》えられたにしても、こんな時《とき》に母《かあ》さんでも生《い》きていて、その膝《ひざ》に抱《だ》かれたら、としきりに恋《こい》しく思《おも》った。いつものように学校《がっこう》へ行《い》ってみると、袖子《そでこ》はもう以前《いぜん》の自分《じぶん》ではなかった。ことごとに自由《じゆう》を失《うしな》ったようで、あたりが狭《せま》かった。昨日《きのう》までの遊《あそ》びの友達《ともだち》からは遽《にわ》かに遠《とお》のいて、多勢《おおぜい》の友達《ともだち》が先生達《せんせいたち》と縄飛《なわと》びに鞠投《まりな》げに嬉戯《きぎ》するさまを運動場《うんどうじょう》の隅《すみ》にさびしく眺《なが》めつくした。
それから一|週間《しゅうかん》ばかり後《あと》になって、漸《ようや》く袖子《そでこ》はあたりまえのからだに帰《かえ》ることが出来《でき》た。溢《あふ》れて来《く》るものは、すべて清《きよ》い。あだかも春《はる》の雪《ゆき》に濡《ぬ》れて反《かえ》って伸《の》びる力《ちから》を増《ま》す若草《わかく
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