上《うえ》に送《おく》った。夕方《ゆうがた》には多勢《おおぜい》のちいさな子供《こども》の声《こえ》にまじって例《れい》の光子《みつこ》さんの甲高《かんだか》い声《こえ》も家《いえ》の外《そと》に響《ひび》いたが、袖子《そでこ》はそれを寝《ね》ながら聞《き》いていた。庭《にわ》の若草《わかくさ》の芽《め》も一晩《ひとばん》のうちに伸《の》びるような暖《あたた》かい春《はる》の宵《よい》ながらに悲《かな》しい思《おも》いは、ちょうどそのままのように袖子《そでこ》の小《ちい》さな胸《むね》をなやましくした。
 翌日《よくじつ》から袖子《そでこ》はお初《はつ》に教《おし》えられたとおりにして、例《れい》のように学校《がっこう》へ出掛《でか》けようとした。その年《とし》の三|月《がつ》に受《う》け損《そこ》なったらまた一|年《ねん》待《ま》たねばならないような、大事《だいじ》な受験《じゅけん》の準備《じゅんび》が彼女《かのじょ》を待《ま》っていた。その時《とき》、お初《はつ》は自分《じぶん》が女《おんな》になった時《とき》のことを言《い》い出《だ》して、
「私《わたし》は十七の時《とき》でした
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