。「袖子《そでこ》さんは私《わたし》が休《やす》ませたんですよ――きょうは私《わたし》が休《やす》ませたんですよ。」
不思議《ふしぎ》な沈黙《ちんもく》が続《つづ》いた。父《とう》さんでさえそれを説《と》き明《あ》かすことが出来《でき》なかった。ただただ父《とう》さんは黙《だま》って、袖子《そでこ》の寝《ね》ている部屋《へや》の外《そと》の廊下《ろうか》を往《い》ったり来《き》たりした。あだかも袖子《そでこ》の子供《こども》の日《ひ》が最早《もはや》終《お》わりを告《つ》げたかのように――いつまでもそう父《とう》さんの人形娘《にんぎょうむすめ》ではいないような、ある待《ま》ち受《う》けた日《ひ》が、とうとう父《とう》さんの眼《め》の前《まえ》へやって来《き》たかのように。
「お初《はつ》、袖《そで》ちゃんのことはお前《まえ》によく頼《たの》んだぜ。」
父《とう》さんはそれだけのことを言《い》いにくそうに言《い》って、また自分《じぶん》の部屋《へや》の方《ほう》へ戻《もど》って行《い》った。こんな悩《なや》ましい、言《い》うに言《い》われぬ一|日《にち》を袖子《そでこ》は床《とこ》の
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