》で、中年《ちゅうねん》で連《つ》れ合《あ》いに死《し》に別《わか》れた人《ひと》にあるように、男《おとこ》の手《て》一つでどうにかこうにか袖子《そでこ》たちを大《おお》きくしてきた。この父《とう》さんは、金之助《きんのすけ》さんを人形扱《にんぎょうあつか》いにする袖子《そでこ》のことを笑《わら》えなかった。なぜかなら、そういう袖子《そでこ》が、実《じつ》は父《とう》さんの人形娘《にんぎょうむすめ》であったからで。父《とう》さんは、袖子《そでこ》のために人形《にんぎょう》までも自分《じぶん》で見立《みた》て、同《おな》じ丸善《まるぜん》の二|階《かい》にあった独逸《ドイツ》出来《でき》の人形《にんぎょう》の中《なか》でも自分《じぶん》の気《き》に入《い》ったようなものを求《もと》めて、それを袖子《そでこ》にあてがった。ちょうど袖子《そでこ》があの人形《にんぎょう》のためにいくつかの小《ちい》さな着物《きもの》を造《つく》って着《き》せたように、父《とう》さんはまた袖子《そでこ》のために自分《じぶん》の好《この》みによったものを選《えら》んで着《き》せていた。
「袖子《そでこ》さんは可哀
前へ 次へ
全24ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング