もした。小諸は東西の風をうけるから、南北に向って「ウネ」を造ると、日あたりも好し、又風の為に穂の擦《す》れ落ちる憂《うれい》が無い、自分等は絶えずそんなことを工夫しているとも話した。
「しかし、上州の人に見せたものなら、こんなことでよく麦が取れるッて、消魂《たまげ》られます」
こう言って、隠居は笑った。
「この阿爺《おとっ》さんも、ちったア御百姓の御話が出来ますから、御二人で御話しなすって下さい」
と辰さんは言い置いて、麦藁《むぎわら》帽の古いのを冠りながら復た畠へ出た。辰さんの弟も股引《ももひき》を膝《ひざ》までまくし上げ、素足を顕して、兄と一緒に土を起し始めた。二人は腰に差した鎌を取出して、時々鍬に附着する土を掻取《かきと》って、それから復た腰を曲《こご》めて錯々《せっせ》とやった。
「浅間が焼けますナ」
と皆な言い合った。
私は掘起される土の香を嗅《か》ぎ、弱った虫の声を聞きながら、隠居から身上話を聞かされた。この人は六十三歳に成って、まだ耕作を休まずにいるという。十四の時から灸《きゅう》、占《うらない》の道楽を覚え、三十時代には十年も人力車《くるま》を引いて、自分が小諸
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