の勁《つよ》さも思いやられる。白樺は多く落葉して高く空に突立ち、細葉の楊樹《やなぎ》は踞《うずくま》るように低く隠れている。秋の光を送る風が騒しく吹渡ると、草は黄な波を打って、動き靡《なび》いて、柏の葉もうらがえりました。
ここかしこに見える大石には秋の日があたって、寂しい思をさせるのでした。
「ありしおで」の葉を垂れ、弘法菜《こうぼうな》の花をもつのは爰《ここ》です。
「かしばみ」の実の落ちこぼれるのも爰《ここ》です。
爰《ここ》には又、野の鳥も住み隠れました。笹の葉蔭に巣をつくる雲雀《ひばり》は、老いて春先ほどの勢も無い。鶉《うずら》は人の通る物音に驚いて、時々草の中から飛立つ。見れば不格好《ぶかっこう》な短い羽をひろげて、舞揚《まいあが》ろうとしてやがて、パッタリ落ちるように草の中へ引隠れるのでした。
外《ほか》の樹木の黄に枯々とした中に、まだ緑勝《みどりがち》な蔭をとどめたところも有る。それは水の流を旅人に教えるので、そこには雑木が生茂って、泉に添うて枝を垂れて、深く根を浸しているのです。
今は村々の農夫も秋の労働に追われて、この高原に馬を放すものも少い。八つが岳山脈の
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