まで合せて三百余頭の馬匹《ばひつ》が列をつくって通過したのも、この原へ通う道だった。馬市の立つというあたりに作られた御|仮屋《かりや》、紫と白との幕、あちこちに巣をかけた商人《あきんど》、四千人余の群集、そんなものがゴチャゴチャ胸に浮んで来た。あの時は、私は仕立屋と連立って、秋の日のあたった原の一部を歩き廻ったが、今でも私の眼についているのは長野の方から知事に随《つ》いて来た背の高い参事官だ。白いしなやかな手を振って、柔かな靴音をさせる紳士だった。それで居て動作には敏捷《びんしょう》なところもあった。丁度あの頃私はトルストイの「アンナ・カレニナ」を読んでいたから、私は自分で想像したヴロンスキイの型《タイプ》をその参事官に当嵌《あてはめ》てみたりなぞした。あの紳士が肩に掛けた双眼鏡を取出して、八つが岳の方に見える牧場を遠く望んでいた様子は――失礼ながら――私の思うヴロンスキイそのままだった。
あの時の混雑に比べると、今度は原の上も寂しい。最早霜が来るらしい雑草の葉のあるいは黄に、あるいは焦茶色に成ったのを踏んで、ポツンポツンと立っている白樺《しらかんば》の幹に朝日の映《あた》るさまなぞ
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