な話を聞いた。牛の性質によって温順《おとな》しく乳を搾《しぼ》らせるのもあれば、それを惜むのもある。アバレるやつ、沈着《おちつ》いたやつ、いろいろある。牛は又、非常に鋭敏な耳を持つもので、足音で主人を判別する。こんな話が出た後で私はこういう乳牛を休養させる為に西《にし》の入《いり》の牧場《まきば》なぞが設けてあることを聞いた。
晩の乳を配達する用意が出来た。Sの兄は小諸を指して出掛けた。
鉄砲虫
この山の上で、私はよく光沢《つやけ》の無い茶色な髪の娘に逢う。どうかすると、灰色に近いものもある。草葺《くさぶき》の小屋の前や、桑畠《くわばたけ》の多い石垣の側なぞに、そういう娘が立っているさまは、いかにも荒い土地の生活を思わせる。
「小さな御百姓なんつものは、春秋働いて、冬に成ればそれを食うだけのものでごわす。まるで鉄砲虫――食っては抜け、食っては抜け――」
学校の小使が私にこんなことを言った。
烏帽子山麓《えぼしさんろく》の牧場
水彩画家B君は欧米を漫遊して帰った後、故郷の根津村に画室を新築した。以前、私達の学校へは同じ水彩画家のM君が教えに来てくれてい
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