中だ。この人達は夏休を応用して、本を読みに私の家へ通っている。岸には、熱い砂を踏んで水泳にやって来た少年も多かった。その中には私達の学校の生徒も混っていた。
暑くなってから、私はよく自分の生徒を連れて、ここへ泳ぎに来るが、隅田川《すみだがわ》なぞで泳いだことを思うと水瀬からして違う。青く澄んだ川の水は油のように流れていても、その瀬の激しいことと言ったら、眩暈《めまい》がする位だ。川上の方を見ると、暗い岩蔭から白波を揚げて流れて来る。川下の方は又、矢のように早い。それが五里淵《ごりぶち》の赤い崖に突き当って、非常な勢で落ちて行く。どうして、この水瀬が是処《こっち》の岩から向うの崖下まで真直《まっすぐ》に突切れるものではない。それに澄んだ水の中には、大きな岩の隠れたのがある。下手をマゴつけば押流されて了《しま》う。だから余程|上《かみ》の方からでも泳いで行かなければ、目的とする岩に取付いて上ることが出来ない。
平野を流れる利根《とね》などと違い、この川の中心は岸のどちらかに激しく傾いている。私達は、この河底の露《あらわ》れた方に居て、溝萩《みぞはぎ》の花などの咲いた岩の蔭で、二時間ばか
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