珍らしそうに眺《なが》めて行く西洋の婦人もあった。町の子供はいずれも嬉しそうに群集の間を飛んで歩いた。
 やがて町の下の方から木の臼《うす》を転《ころ》がして来た。見物はいずれも両側の軒下なぞへ逃げ込んだ。
「ヨイヨ。ヨイヨ」
 と掛声して、重い御輿が担《かつ》がれて来た。狭い往来の真中で、時々御輿は臼の上に置かれる。血気な連中はその周囲《まわり》に取付いて、ぐるぐる廻したり、手を揚げて叫んだりする。壮《さか》んな歓呼の中に、復た御輿は担がれて行った。一種の調律は見物の身《からだ》に流れ伝わった。私は戻りがけに子供まで同じ足拍子で歩いているのを見た。
 この日は、町に紛擾《ごたごた》のあった後で、何となく人の心が穏かでなかった。六時頃に復た本町の角へ出て見た。「ヨイヨヨイヨ」という掛声までシャガレて「ギョイギョ、ギョイギョ」と物凄《ものすご》く聞える。人々は酒気を帯て、今御輿が町の上の方へ担がれて行ったかと思うと急に復た下って来る。五六十人の野次馬は狂するごとく叫び廻る。多勢の巡査や祭事掛は駈足《かけあし》で一緒に附いて歩いた。丁度夕飯時で、見物は彼方是方《あちこち》へ散じたが、御輿の
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