とした白い烟《けむり》を揚げるのを見た。谷底にある竹の林が皆な草のように臥《ね》て了ったのをも見た。
岩村田通いの馬車がこの雪の中を出る。馬丁の吹き鳴らす喇叭《らっぱ》の音が起る。薄い蓙《ござ》を掛けた馬の身《からだ》はビッショリと濡《ぬれ》て、粗《あら》く乱れた鬣《たてがみ》からは雫《しずく》が滴《したた》る。ザクザクと音のする雪の路を、馬車の輪が滑《すべ》り始める。白く降り埋《うず》んだ道路の中には、人の往来《ゆきき》の跡だけ一筋赤く土の色になって、うねうねと印したさまが眺《ながめ》られる。家ごとに出て雪をかく人達の混雑したさまも、こういう土地でなければ見られない光景《ありさま》だ。
薄い靄か霧かが来て雪のあとの町々を立ち罩《こ》めた。その日の黄昏時《たそがれどき》のことだ。晴れたナと思いながら門口に出て見ると、ぱらぱらと冷いのが襟《えり》にかかる。ヤア降ってるのかと、思わず髪に触《さわ》ると、霧のように見えたのは矢張細かい雪だということが知れる。二度ばかり掻取《かきと》った路も、また薄白くなって、夜に入れば、時々家の外で下駄の雪の落す音が、ハタハタと聞える。自分の家へ客でも訪
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