そば》へ鼻を押しつけ、亭主に叱《しか》られた。やがて私達の後を廻って遠慮なくW君の膝に上った。「野郎」と復た亭主に叱られて炉辺に縮み、寒そうに火を眺めて目を細くした。
「私はこの猫という奴が大嫌《だいきら》いですが、本家でもって無理に貰ってくれッて、連れて来やした」
と亭主は言って、色の黒い野鼠がこの小屋へ来ていたずらすることなど、山の中らしい話をして笑った。
「すこし煙《けむっ》たくなって来たナア。開けるか」とW君は起上って、細目に小屋の障子を開けた。しばらく屋外《そと》を眺めて立っていた。
「ああ好い月だ、冴《さ》え冴えとして」
と言いながらこの同僚が座に戻る頃は、鍋から白い泡《あわ》を吹いて、湯気も立のぼった。
「さア、もういいよ」
「肉を入れて下さい」
「どれ入れるかナ。一寸待てよ、芋を見て――」
亭主は貝匙《かいさじ》で芋を一つ掬《すく》った。それを鍋蓋の上に載せて、いくつかに割って見た。芋は肉を入れても可い程に煮えた。そこで新聞紙包が解かれ、竹の皮が開かれた。赤々とした牛《ぎゅう》の肉のすこし白い脂肪《あぶら》も混ったのを、亭主は箸で鍋の中に入れた。
「どうも甘《うま
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