れは立派なのが来ましたよ」
 お竹さんは番人の細君のことで、本家の小母さんとは小諸を出がけに私達にすこしは多く米を持って行けと注意してくれた人だ。W君はこの人達と懇意で、話し方も忸々《なれなれ》しい。
 米を入れた頭陀袋、牛肉の新聞紙包、それから一かけの半襟《はんえり》なぞが、土産《みやげ》がわりにそこへ取出された。
 番人は小屋へ入りがけに、
「肉には葱《ねぎ》が宜《よろ》しゅうごわしょうナア」
 と言うと、W君も笑って、
「ああ葱は結構」
「序《ついで》に、芋があったナア――そうだ、芋も入れるか」と番人は屋外《そと》へ出て行って、葱、芋の貯えたのを持って来た。やがて炉辺へドッカと座り、ぶすぶす煙る雑木を大火箸《おおひばし》であらけ、ぱっと燃え付いたところへ櫟《くぬぎ》の枝を折りくべた。火勢が盛んに成ると、皆なの顔も赤々と見えた。
 番人はまだ年も若く、前の年の四月にここへ引移って、五月に細君を迎えたという。火に映る顔は健《すこや》かに輝き眼は小さいけれど正直な働き好きな性質を表していた。話をしては大きく口を開いて、頭を振り、舌の見える程に笑うのが癖のようだ。その笑い方はすこし無作法
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