って来て、既に暮色の迫るのを感じた。西の山々のかなたには、日も隠れた。私達は後方《うしろ》を振返り振返りして急いで行った。
静かな松林の中にある一筋の細道――それを分けて上ると、浅間の山々が暗い紫色に見えるばかり、松葉の落ち敷いた土を踏んで行っても足音もしなかった。林の中を泄《も》れて射し入る残りの光が私達の眼に映った。西の空には僅《わず》かに黄色が残っていた。鳥の声一つ聞えなかった。
そのうちに、一つの松林を通越して、また他の松林の中へ入った。その時は、西の空は全く暗かった。月の光はこんもりとした木立の間から射し入って、林に満ちた夕靄《ゆうもや》は煙《けぶ》るようであった。細長い幹と幹との並び立つさまは、この夕靄の灰色な中にも見えた。遠い方は暗く、木立も黒く、何となく深く静かに物寂《ものさみ》しい。
宵の月は半輪《はんりん》で、冴《さ》えてはいたが、光は薄かった。私達が辿《たど》って行く道は松かげに成って暗かった。けれども一筋黒く眼にあって、松葉の散り敷いたところは殊に区別することが出来た。そこまで行くと、最早《もう》人里は遠く、小諸の方は隠れて見えなかった。時々私達は林の中に
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