、寢苦しい。その晩は私も縁先の籐椅子にもたれて、湖水に聲のなくなるほど遲くまで起きてゐた。
十二 菅田庵を訪ふ
松江の郊外にある菅田庵《すがたあん》は、不昧公が遺愛の茶室で知られてゐる。松江における不昧公の位置は、白河における樂翁公のそれを思ひ出させる。
松江を去る前の日の午前に、私達は太田、古川二君に導かれて菅田庵を訪ねた。その時は私達の宿の親戚にあたる松影堂の主人とも同道した。柿谷といふところにある有澤氏の山莊がそれで、昔の人達が魂を休めに行くためにあつたやうな村里の片ほとりに隱れてゐた。
山莊の入口にある小徑はかなり長かつた。私は曾てこんな樂しい小徑をふんだことがない。そこを踏むばかりでも、ひとりでに私達の心は澄んで行くのを覺える。古い池がある。竹の林がある。淺い谷間の地勢がその一方にひらけて、茄子畠の向うには遠く鷄の聲を聞く。その邊の土の色の赤さは驚くばかりだ。日のあたつた赤い茄子畠は繪にでもしたらと思ふばかりに美しい。苔蒸した坂道に添うて楓の樹の多い小山に出ると、さゝやかな枝折戸がある。今の主人はそこに草履などを用意して、私達を迎へてくれた。靴を草履にはきか
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