ひがしこんがう》ともいふ。例のテエブルの周圍には、渡邊君、野村君、それに會社側の營業部員や船員などが集まつて話した。渡邊君は岡田汽船會社の專務取締役でもあり、同じ囘漕店の支配人でもあり、境の港町の町會議員をも兼ねてゐるやうな人で、最初私は同君からおそろしく長い肩書の名刺を貰つた時、これはどういふ人かと思つたが、だん/\言葉をかはして見てゐるうちにその男らしい容貌と態度とに心をひかれるやうになつた。磊落《らいらく》で剛膽な渡邊君と、綿密で神經質な野村君とは、二人の體格と服裝とからしておもしろい對照を見せてゐた。旅の空の氣輕さ。私は雲のやうになつて來て、長い間の知り合か何かのやうにこれらの人達と話すことも出來たのである。
野村君もなか/\元氣で私の方を見ながら四方山《よもやま》の話をした。
「どうでせう、美保の關の人間くらゐ古《むかし》を守つてゐるものも、めづらしいでせうな。親代々から鷄も飼はず、孫子に傳へて玉子も食はないなんて、そんなところが他にありませうか。」
「でも、君等だつて他の土地へ行つたら、玉子ぐらゐ食ふでせう。」
私達の側にはこんなことをいつて話を混ぜ返すものもある。
「
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