やさしみ
    はなをとり
そでなひたしそ
    いけみづに

ひとめもはぢよ
    はなかげに
なれが乳房《ちぶさ》の
    あらはるゝ

   妹

ふかくもすめる
    いけみづの
葉にすれてゆく
    みなれざを

なつぐもゆけば
    かげみえて
はなよりはなを
    わたるらし

   姉

荷葉《はすは》にうたひ
    ふねにのり
はなつみのする
    なつのゆめ

はすのはなふね
    さをとめて
なにをながむる
    そのすがた

   妹

なみしづかなる
    はなかげに
きみのかたちの
    うつるかな

きみのかたちと
    なつばなと
いづれうるはし
    いづれやさしき

   三 葡萄《ぶどう》の樹《き》のかげ
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はるあきにおもひみたれてわきかねつ
    ときにつけつゝうつるこゝろは
[#ここで字下げ終わり]

   妹

たのしからずや
    はなやかに
あきはいりひの
    てらすとき

たのしからずや
    ぶだうばの
はごしにくもの
    かよふとき

   姉

やさしからずや
 
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