かるゝ赤樟《あかくす》も
おのづからなるすがたのみ
檜《ひのき》は荒し杉直し
五葉は黒し椎《しひ》の木の
枝をまじゆる白樫《しらかし》や
樗《あふち》は茎をよこたへて
枝と枝とにもゆる火の
なかにやさしき若楓《わかかへで》
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山精《やまびこ》
ひとにしられぬ
たのしみの
ふかきはやしを
たれかしる
ひとにしられぬ
はるのひの
かすみのおくを
たれかしる
木精《こだま》
はなのむらさき
はのみどり
うらわかぐさの
のべのいと
たくみをつくす
大機《おほはた》の
梭《をさ》のはやしに
きたれかし
山精
かのもえいづる
くさをふみ
かのわきいづる
みづをのみ
かのあたらしき
はなにゑひ
はるのおもひの
なからずや
木精
ふるきころもを
ぬぎすてて
はるのかすみを
まとへかし
なくうぐひすの
ねにいでて
ふかきはやしに
うたへかし
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あゆめば蘭《らん》の花を踏み
ゆけば楊梅《やまもも》袖に散り
袂《たもと》にまとふ山葛《やまくづ》の
葛のうら葉をかへしては
女蘿《ひかげ》の蔭のやまいちご
色よき実こそ落ちに
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