ればかくとゞまらで
待たで散るらんさける間《ま》も
かなしいかなやうるはしき
なさけもこひの花を見よ
いと/\清きそのこひは
消ゆとこそ聞けいと早く
君し花とにあらねども
いな花よりもさらに花
君しこひとにあらねども
いなこひよりもさらにこひ
かなしいかなや人の世に
あまりに惜しき才《ざえ》なれば
病《やまひ》に塵《ちり》に悲《かなしみ》に
死にまでそしりねたまるゝ
かなしいかなやはたとせの
ことばの海のみなれ棹《ざを》
磯にくだくる高潮《たかじほ》の
うれひの花とちりにけり
かなしいかなや人の世の
きづなも捨てて嘶《いなな》けば
つきせぬ草に秋は来て
声も悲しき天の馬
かなしいかなや音《ね》を遠み
流るゝ水の岸にさく
ひとつの花に照らされて
飄《ひるがへ》り行く一葉舟《ひとはぶね》
[#改段]
四 深林の逍遙《しょうよう》、其他
深林の逍遙
力を刻《きざ》む木匠《こだくみ》の
うちふる斧のあとを絶え
春の草花《くさばな》彫刻《ほりもの》の
鑿《のみ》の韻《にほひ》もとゞめじな
いろさま/″\の春の葉に
青一筆《あをひとふで》の痕《あと》もなく
千枝《ちえ》にわ
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