秋は来ぬ
おくれさきだつ秋草《あきぐさ》も
みな夕霜《ゆふじも》のおきどころ
笑ひの酒を悲みの
盃《さかづき》にこそつぐべけれ
秋は来ぬ
秋は来ぬ
くさきも紅葉《もみぢ》するものを
たれかは秋に酔はざらめ
智恵《ちえ》あり顔のさみしさに
君笛を吹けわれはうたはむ
初恋
まだあげ初《そ》めし前髪《まへがみ》の
林檎《りんご》のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛《はなぐし》の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅《うすくれなゐ》の秋の実《み》に
人こひ初《そ》めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃《さかづき》を
君が情《なさけ》に酌《く》みしかな
林檎畑の樹《こ》の下に
おのづからなる細道《ほそみち》は
誰《た》が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
狐のわざ
庭にかくるゝ小狐の
人なきときに夜《よる》いでて
秋の葡萄の樹の影に
しのびてぬすむつゆのふさ
恋は狐にあらねども
君は葡萄にあらねども
人しれずこそ忍びいで
君をぬすめる吾《わが》心
髪を洗へば
髪を洗
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