わさびおろし》か。流許の氷は溶けてちょろちょろとして溝《どぶ》の内へ入る。爼板《まないた》の出してあるは南瓜を祝うのです。手桶の寝せてあるは箍《たが》の切れたのです。※[#「たけかんむり」に「瓜」、62−6]《ざる》に切捨てた沢菴《たくあん》の尻も昨日の茶殻に交って、簓《ささら》と束藁《たわし》とは添寝でした。眺めては思い、考えては迷い、あちこちと歩いておりますと、急に楽隊の音がする。大太鼓や喇叭が冬の空に響き渡って、君が代の節が始りました。台所の下駄を穿《は》いて裏へ出て見ますと、幾千人の群の集った式場は十字を白く染抜いた紫の幕に隠れて、内の様子も分りません。幕の後から覗く百姓の群もあれば、柵《さく》の上に登って見ている子供も有ました。手を拍《たた》く音が静《しずま》って一時|森《しん》としたかと思うと、やがて凛々《りり》しい能く徹る声で、誰やらが演説を始める。言うその事柄は能く解りませんのでしたが、一言、一言、明瞭《はっきり》耳に入るので、思わず私も聞惚れておりました。
丁《とん》、と一つ、軽く背《せなか》を叩かれて、吃驚《びっくり》して後を振返って見ると、旦那様はもう堪《こら》
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