だろう。耐《こら》えに耐えた旦那様の御怒が一旦洪水のように切れようものなら、まあその勢はどんなであろう。平常《ふだん》御人の好い旦那様のような御方が御|立腹《はらだち》となった日には、どんな恐しいことをなさるだろう。とこう想い浮べましたら、遽《にわか》に身の毛が弥起《よだ》って、手も足も烈しく震えました。ふらふらとして其処へ仆《たお》れそうにもなる。とても躊躇《ためら》わずにはいられませんのでした。私は見えない先のことに恐れて、上草履を鳴らしながら板の間を歩いて見ました。
 冬の光は明窓《あかりまど》から寂しい台所へさしこんで、手慣れた勝手道具を照していたのです。私は名残惜しいような気になって、思乱れながら眺めました。二つ竈《べっつい》は黒々と光って、角に大銅壺《おおどうこ》。火吹竹はその前に横。十能《じゅうの》はその側に縦。火消|壺《つぼ》こそ物言顔。暗く煤《すす》けた土壁の隅に寄せて、二つ並べたは漬物の桶《おけ》。棚の上には、伏せた鍋、起した壺、摺鉢《すりばち》の隣の箱の中には何を入れて置いたかしらん。棚の下には味噌の甕《かめ》、醤油《しょうゆ》の樽《たる》。釘に懸けたは生薑擦子《
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