した左の足の長い親指の反《そ》ったまで、しどけない御姿は花やかな洋燈《ランプ》の夜の光に映りまして、昼よりは反《かえっ》て御美しく思われました。
「奥様、御足《おみあし》でも撫《さす》りましょうか」
と私は御傍へ倚添《よりそ》いました。
「ああ、もうお済かい」と奥様は起直って、懐《ふところ》を掻合《かきあわ》せながら、「お前、按摩《あんま》さんをしてくれるとお言いなの。今日はね、肩のところが痛くて痛くて――それじゃ、一つ揉んで見ておくれな」
「あれ、御寝《およ》っていらしったら、どうでございます」
「なに、起きましょうよ」
私はよく母親《おふくろ》の肩を揉せられましたから、その時奥様のうしろへ廻りまして、柔《やわらか》な御肩に触ると、急に母親を想出しました。母親の労働《はたら》く身体から思えば、奥様を揉む位は、もう造作もないのでした。
「お世辞でも何んでもないが、お定はなかなか指に力があるのねえ。お前のように能くしておくれだと、真実《ほんとう》に私ゃ嬉しい。旦那様も、日常《しょっちゅう》褒《ほ》めていらっしゃるんだよ」
それから奥様は私の器量までも御褒め下さいました。奥様が私を御
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