は響のする方へ動いた。それに、子供等の遊友達を見ると、思出すことばかり多くて、この静かな土地を離れたく成った。彼は町の方へ家を移そうと考えた。そのゴチャゴチャした響の中で、心を紛《まぎらわ》したり、新規な仕事の準備《したく》に取掛ったりしようと考えた。
家を指して、雑木林《ぞうきばやし》の間を引返して行くと、門の内に家の図を引いている人がある。やはりこの郊外に住む風景画家だ。お雪は入口のところに居て、どの窓がどの方角にあるなどと話し聞かせていた。
風景画家は洋服の袖隠《かくし》から磁石《じしゃく》を取出した。引いた図の方角をよく照らし合せて見て、ある家相を研究する人のことを三吉に話した。あまり子が死んで不思議だ、家相ということも聞いてみ給え、これから家を移すにしても方角の詮議《せんぎ》もしてみるが可《い》い、こう言って、猶《なお》この家の図は自分の方から送って置く、と親切な口調で話して行った。
「ああいう画を描く人でも、方角なぞを気にするかナア」
と三吉は言ってみたが、しかし家の図までも引いて行ってくれる風景画家の志は難有《ありがた》く思った。
お雪は夫の方を見て、
「貴方のよ
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