持って帰って来た。これは名倉の姉から、これは※[#「※」は「○の中にナ」、67−17]の姉から、これは※[#「※」は「ひとがしら+ナ」、67−17]の妹から、とそこへ取出した。※[#「※」は「○の中にナ」、67−17]は彼女が二番目の姉の家で、※[#「※」は「ひとがしら+ナ」、67−18]は妹のお福の家である。「名倉母より」とした土産がお俊やお延の前にも置かれた。
 この荷物のゴチャゴチャした中で、お雪は往復《いきかえり》の旅を混合《とりま》ぜて夫に話した。
「私が生家《うち》へ着きますとネ、しばらく父親さんは二階から下りて来ませんでしたよ。そのうちに下りて来て、台所へ行って顔を洗って、それから挨拶しました。父親さんは私の顔を見ると、碌《ろく》に物も言えませんでした……」
「余程嬉しかったと見えるネ」
「よくこんなに早く仕度して来てくれたッて、後でそう言って喜びました。私が行くまで、老祖母《おばあ》さんの葬式も出さずに有りましたッけ」
 お雪の話は帰路《かえり》のことに移って行った。出発の日は、姉妹《きょうだい》から親戚の子供達まで多勢波止場に集って別離《わかれ》を惜んだこと、妹のお福
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