「叔父さん、叔母さんが御帰りですよ」
と二人の姪は、叔父を呼ぶやら、叔母の方へ行くやらして、門の外まで出て迎えた。二つの車に分けて載せてある手荷物は、娘達が手伝って、門の内へ運んだ。
「どうも長々|難有《ありがと》う御座いました」
と娘達に礼を言いながら、お雪は入口のところで車代を払って、久し振で夫や姪の顔を見た。
「種ちゃんもお腹《なか》が空《す》いたでしょう。先《ま》ず一ぱい呑みましょうネ」
とお雪が懐をひろげた。三吉は子供のウマそうに乳を呑む音を聞きながら、「ああ、好いところへお雪が帰って来てくれた」と思った。
娘達は茶を入れて持って来た。お雪は乾いた咽喉《のど》を霑《うるお》して、旅の話を始めた。やがて、汽船宿の扱い札などを貼付《はりつ》けた手荷物が取出された。
「父さん、済みませんが、この鞄《かばん》を解《ほど》いてみて下さいな。お俊ちゃん達に進《あ》げる物がこの中に入っている筈《はず》です――生家《うち》の父親さんはこんなに堅く荷造りをしてくれて」
こうお雪が言った。
幾年振かで生家《さと》の方へ行ったお雪は、多くの親戚から送られた種々な土産物《みやげもの》を
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