ちゃんも毎日勉強してる」
 こうお倉は答えながら、娘の方へ行って、帯を締る手伝いをしたり、台所の方まで見廻りに行ったりした。
「叔父さん、リボンを見ておくんなんしょ」とお延が三吉の傍へ来た。
「私のも、似合いまして?」とお俊も来て、うしろむきに身を斜にして見せた。
 三吉は約束の金を嫂の前に置いた。お倉はそれを受取って、帯の間へ仕舞いながら、宗蔵の世話料をも頼むということや、正太がちょいちょい遊ぶということや、それから自分の夫が今度こそは好く行《や》って貰わなければ成らないということなどを話し込んだ。
 娘達は最早花火の音が聞えるという眼付をした。そこまでお倉を送って行こう、と催促した。
「母親さんは煙草を忘れて来た。一寸叔父さんに一服頂いて」
 お倉は弟が出した巻煙草に火を点《つ》けて、橋本の姉もどうしているかとか、大番頭の嘉助も死んだそうだとか、豊世を早く呼寄せるようにしなければ、正太の為《ため》にも成らないとか、それからそれへと話した。
「母親さん、早く行きましょうよ」とお俊はジレッタそうに。
「アア、今行く」と言って、お倉は弟の方を見て、「今度という今度は、それでも吾夫《やど》
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