る中から、思い思いに見立てて来た涼しそうな中形《ちゅうがた》を、叔父に褒《ほ》めて貰う積りであった。
「何だって、こんな華美《はで》なものを買って来るんだね」
と叔父は気に入らなかった。
「豊世姉さんだって随分華美なものを着るわねえ」
こうお俊が従姉妹《いとこ》に言った。三吉はそれを聞いて、何故《なぜ》小泉の家が今日のように貧乏に成ったろうとか、何故娘達がそれを思わないだろうとか、何故旧い足袋《たび》を穿《は》いていても流行《はやり》を競うような量見に成るだろうとか、種々なヤカマしいことを言出した。
「でも、こういうもので無ければ、私に似合わないんですもの」
とお俊は萎《しお》れた。
やがて三吉は機嫌《きげん》を直して、お俊の父が金策の為に訪ねて来たことを話し聞かせた。その時お俊は自分の家の方の噂《うわさ》をした。丁度彼女が帰って行った日は、公売処分の当日であったこと、ある知人《しりびと》に頼んで必要な家具は買戻して貰ったこと――執達吏――高利貸――古道具屋――その他生活のみじめさを思わせるような言葉がこの娘の口から出た。
三吉は家の内をあちこちと歩いた。最後の波に洗われて
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