御休だもんですから」
「へえ、鶴ちゃんの方は未だ有るのかい」と三吉が聞いた。
「この娘《こ》の学校は御休が短いんです……あの、吾家《うち》の阿父《おとっ》さんからも叔父さんに宜しく……」
「お俊姉さまが来て下すったんで、真実《ほんと》に私は嬉しい」とお延はそれを繰返し言った。
長い長い留守居の後で、お俊姉妹は漸《ようや》く父の実と一緒に成れたのである。この二人の娘は叔父達の力と、母お倉《くら》の遣繰《やりくり》とで、僅《わず》かに保護されて来たようなものであった。三吉がはじめて家を持つ時分は、まだお俊は小学校を卒業したばかりの年頃であった。それがこうして手伝いなぞに来るように成った。お俊は幾年振かで叔父の側に一夏を送りに来た。
「鶴ちゃん、お裏の方へ行って見ていらっしゃい」とお俊が言った。
「鶴ちゃんも大きく成ったネ」
「あんなに着物が短く成っちゃって――もうズンズン成長《しとな》るんですもの」
お鶴はキマリ悪そうにして、笑いながら庭の方へ下りて行った。
「俊、お前のとこの阿父《おとっ》さんは何してるかい」
「まだ何事《なんに》もしていません……でも、朝なぞは、それは早いんですよ。
前へ
次へ
全324ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング