ある店を勤めていた。三吉は一ぱい物の散乱《ちらか》してある縁側のところへ行って、この阿爺《おとっ》さんとも言いたい年配の人の前に立った。
「アアそうですか。宜《よろ》しい。承知しました」と女教師の旦那は、心|易《やす》い調子で、三吉から種々《いろいろ》聞取った後で言った。「橋本さんなら、私も御見掛申して知っています。御年齢《おとし》は何歳《いくつ》位かナ」
「私より三つ年少《した》です」
「むむ、未だ御若い。これから働き盛りというところだ。御気質はどんな方ですか――そこも伺って置きたい」
「そうですナア。ああして今では浪人していますが、一体|華美《はで》なことの好きな方です」
「それでなくッちゃ不可《いけない》――相場師にでも成ろうという者は、人間が派手でなくちゃ駄目です。では、私の許《ところ》まで簡単な履歴書をよこして下さい。宜しい。一つ心当りを問合せてみましょう」
女教師の旦那は引受けてくれた。
甥のことを頼んで置いて、自分の家へ引返してから、三吉は不取敢《とりあえず》正太へ宛《あ》てて書いた。その時は姪のお延と二人ぎりであった。
「叔母さん達も、最早|余程《よっぽど》行ったわ
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