つも》と変らなかった。
乾燥した空気は病室の壁に掛けてある額の油絵まで明るく見せた。微《かす》かな心地の好い風も通って来た。玻璃窓の外には、遠く白い夏雲を望んだ。三吉は窓の方へ行って、静かな病院の庭を眺めて、復た甥の枕許へ来た。
「正太さん、君の一生を書いて見ようかネ――何だか書いて置きたいような気もするネ」
「何卒《どうぞ》、叔父さん、御書きなすって下さい――是非御書きなすって下さい――好かれ、悪《あ》しかれ――」
正太は微かな笑《えみ》を口元に浮べながら、力を入れて答えた。
こうして正太と二人ぎりで居ることは、病院に来ては得難い機会《おり》であった。豊世は濯《すす》ぎ物《もの》か何かに出て居なかった。幸作も見えなかった。その時、三吉は向島の言伝《ことづて》を齎《もたら》そうとして、電話で聞かせたことを話しかけた。お種が廊下の方から入って来た。
「姉さん、一寸|彼方《あっち》へ行ってて下さい。すこし私は正太さんに話したいことが有る」
と三吉に言われて、姉は笑いながら出て行った。
「しばらく私の方へは便りが有りません……」と正太は向島親子が病んでいることを叔父から聞いた後で、言
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