璃戸《ガラスど》のところで巻煙草を燻《ふか》した。白い制服を着けた看護婦は長い廊下を往来《ゆきき》していた。


 森彦は旅舎《やどや》の方で、看護する人達のことを心配していた。共進会も終った頃で、二階には泊り客も少かった。部屋々々は風通しよく明けひろげてあった。そこへ三吉はお種と一緒に、病院から戻って来た。
「御風呂を御馳走《ごちそう》してくれるそうだで、一寸呼ばれに来ました」とお種は森彦に言った。
「ええ、貴方がたは看病にばかり夢中に成ってるが、各自《めいめい》注意しないと不可《いかん》。湯にでも入って、すこし休んでお出。今日は一つ――三吉も来たし――夕飯を奢《おご》ろう」
 と言って、森彦は女中を呼んだ。
「三吉は何が好い。鳥肉《とり》でも食うか」と復た彼は弟を顧みて言った。
 一風呂浴びた後、姉弟三人は一緒に集って茶を飲んだ。「今度は、姉さんも非常に成績が好い――その点は感心した」と森彦が面と向って姉に言う位で、橋本の家で三吉が一緒に成った時のお種とは別の人のように見えた。狂人《きちがい》にでも成るかと思われたお種の晩年に、こうした静かさが来ようとは、実に三吉には思いもよらない
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