ことも出来た。そこで三吉は正太のことを思った。
 お雪も楼梯《はしごだん》を上って来て、豊世が置いて行ったという話を夫にした。正太が一つ場所《ところ》に一週間居ると、必《きっ》ともうそこには何か持上っている――正太はお俊にまで掛った――こんなことまで豊世はお雪に話して行ったとかで。
「『真実《ほんと》に、叔母さんは可羨《うらやま》しい』なんて、豊世さんはそんなことを言って帰りましたっけ」
「でも、お前は不平だって言うじゃないか」と三吉は聞き咎《とが》める。
「何にも不平なことは有りません」
 こうお雪が力を入れて答えたので、しばらく三吉は妻の顔を眺めていた。
「吾儕《われわれ》が豊世さんから羨《うらや》まれるようなことは何にも無いサ――唯、身体が壮健《じょうぶ》だというだけのことサ」
 そう言って置いて、三吉は自分の仕事の方へ行った。
 その晩、三吉夫婦は遅くまで正太や豊世の噂をした。子供等が寝沈まった頃、お雪は何か思出したという風で、平素《いつも》にない調子で、
「父さん、私を信じて下さい……ネ……私を信じて下さるでしょう……」
 と夫の腕に顔を埋めて、終《しまい》には忍び泣に泣出し
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