」と豊世が言った。「真実《ほんと》に楽しいと思ったのは、結婚して一年ばかりの間でしたよ……それからもう家の内がゴタゴタゴタゴタし出して……母親さんは臥《ね》たり起きたりするように御成んなさる……そのうちにあの騒ぎでしょう」
 お雪も微《かす》かな溜息《ためいき》を吐いた。
「何しろ、正太さんと私とは縁故の深い訳ですネ――」と三吉は話を引取った。「私達二人は小学校時代から一緒でしたからネ。尤《もっと》も級は違いましたが。私が八つばかりの時に東京へ修業に出される……あの頃は土耳古形《トルコがた》のような帽子が流行《はや》って、正太さんも房の垂下ったのを冠ったものでサ……あんな時分から一緒なんですからね」
「旧《ふる》い、旧い御馴染」と豊世は受けて、「叔父さんが仙台に被入《いら》しった時分、宅のことで書いて寄して下すった手紙が、昨年でしたか出て参りましたっけ。あれなぞを見ましても、余程《よっぽど》宅は皆さんに心配して頂いた人なんですネ」
「へえ、そんな手紙を進《あ》げましたかナア」
「なんでも宅の方針のことで、叔父さんの意見を聞きに上げたんでしょう……あんなに皆さんから心配された位ですから、
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