そうかと言って、東京の家を畳むのも惜しいなんて言いますし――」
「ああ、意気地の無いものは駄目です」と正太は妻の方を見て、アテコスるような調子で歎息した。「どういうものか、豊世は、イヤに突掛って来るようなことばかり言う……こう俺に……しかし、無理も無いサ。この年に成って、碌に妻も養えないような人間だからナア」
これを聞くと、豊世はもう何事《なんに》も言えなかった。
「まあ、森彦さんにも相談するサ」と云って、三吉は調子を変えて、「駒形の家に居る老婆《ばあ》さんネ、あの人も一生懸命で君の留守居をしてるよ。稀《たま》に僕が留守見舞に寄ると、これは旦那から預った植木だから、どうしてもこいつを枯らしちゃ成らんなんて……余程《よっぽど》主人思いだネ」
正太も笑った。「叔父さん、ホラ、私がこの夏、岐阜《ぎふ》の方へ行って、鵜飼《うかい》の絵葉書を差上げましたろう。あの時、下すった御返事は、大事に取っといてあります」
「どんな返事を進《あ》げたっけネ」
「ホラ、私も長良川《ながらがわ》に随いて六七里下りましたと申上げました時に……あの暑い盛りに……こう夏草の香のする……」
「そうそう、木曾路を行く
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